「AIはどのように自社のビジネスに影響を及ぼすのか。」
専門知識を必要とせず、誰もが会話をするように指示を出し回答を得られる生成AIの隆盛は、全ての経営者・ビジネスマンにそのような問いを投げ掛けています。AIを使いこなす企業とそうでない企業の差が埋められないほど大きく開いていく、そんな未来が遅かれ早かれやってくるかもしれません。
とはいえ、現在のAIの信頼性や安全性には疑問があったり、そもそもAIがどのようなものなのか、いつどのようにビジネスに採り入れるのが最適なのかが分からないという方もいらっしゃるでしょう。
一方で、いち早くビジネスの現場で利用が進んでいるのがAI翻訳です。この記事では生成AIとAI翻訳とを比較しながら、それぞれの特徴や違い・提供価値・ビジネスで活用するにあたっての注意点などをご紹介します。まずはAIへの理解を深めていただくことで、自社への導入を考えるための、ファーストステップを踏み出していただければと思います。
目次
最も身近なAI:AI翻訳の現在地
AI翻訳は、文字通り、ある言語のテキストを別の言語に翻訳するAIです。これは、単語や文の意味を解析し、文脈に適した翻訳を行うことを目的としています。
コンピューターを使った翻訳技術の研究がスタートしたのは、第2次世界大戦直後の1946年(*1)。その研究の歴史についてはここでは触れませんが、飛躍的に進化し、実用レベルになったのは2010年代後半と言われています。その著しい精度向上は、ニューラルネットワークという、人間の脳内の神経細胞のつながりを模した基盤の実現によってもたらされました。
現在、みらい翻訳が開発するAI翻訳は、TOEIC960点レベルの翻訳精度と数千語を数秒で処理できる翻訳スピードで、80万を超えるビジネスユーザーに活用されるまでになりました。みらい翻訳を使ったことが無いとしても、Google翻訳なら馴染みがあるという方も多いと思います。実用レベルへの到達から数年で、AI翻訳は、当たり前のような存在になりました。
生成AIとは?新しいコンテンツを生み出すAI
生成AI(Generative AI)とは、大量の学習データを基に新しいコンテンツを生成するAIです。文章、画像、音声、プログラムコードなど、さまざまな形式のデータを生成することができます。代表的な例として、OpenAIのChatGPTやGoogleのGeminiなどが挙げられます。
実は生成AIも、AI翻訳と同じニューラルネットワークを基盤としています。より専門的に言えば、ニューラルネットワークの一種である「Transformer」というモデルで開発されているところまで同じです。「Transformer」は、単語間のつながりを解析し、より抽象的な概念を含め推論可能になった点が優れています。
基盤は同じでも、それぞれのAIの利用目的が異なるため、機械学習の方法やトレーニング方法、基盤のどの部分をどう活用するかなどが異なります。これらの違いは、それぞれのAIが得意とすることや不得意なこと、運用コストなど、更なる違いを生み出しています。
AI翻訳と生成AIの違い①:得意なこと・不得意なこと
前述の通り、AI翻訳と生成AIは同じモデルを基盤としながらも、さまざまな点で違いがあります。ここからは、特にビジネス導入するにあたって重要な特徴や違いに絞って見ていきたいと思います。まずは、それぞれ得意なこと・不得意なことをまとめてみました。
<AI翻訳>
● 得意なこと:
● 不得意なこと:
専門用語の翻訳については、その分野の良質な専門データによる追加学習とチューニングにより精度を高めることが可能です。実際に、みらい翻訳でも特許モデルや法務・財務モデル、製薬モデルなどの開発に成功しています。生成AIに比べると、特化学習しやすいAIであることも、AI翻訳の特長と言えます。
<生成AI>
● 得意なこと:
● 不得意なこと:
どんな投げかけにも回答を生成するように作られているために、事実とは異なる情報を生成する場合があることに注意が必要です。人間のように「わからない」という回答が無く、最もそれらしい文章を生成します。
正確性以外にも、ある程度経験を積んだビジネスマンからすると、生成内容のレベルが低いという声もあります。生成内容をより高度化することはできますが、適切なプロンプト(命令文)や専門的なデータの入力など、利用する側の対応が求められます。
前編まとめ
ここまでのところで、AI翻訳と生成AIの違いが見えてきたでしょうか?AI翻訳が、「入力されたテキストを正確に翻訳する」という目的に特化して開発されたAIであるのに対し、生成AIは、新たなコンテンツを創り出すAIで、利用者の使い方はある意味広く開かれています。
【後編】では、AI翻訳・生成AIをビジネスのどの領域に導入し、どのような価値を提供しうるかを見ていきます。ぜひ【後編】もご覧ください。
(*1)隅田英一郎『AI翻訳革命』(朝日新聞出版、2022年)p.156