【前編】では、 AI翻訳と生成AI が「Transformer」という同じ基盤をベースとしつつも、ぞれぞれの目的に応じて開発され、AI翻訳が入力されたテキストを正確・高速に特定の言語と翻訳することに長けていること、生成AIが、入力された命令に基づき新しいコンテンツを生み出せることをご説明しました。
【後編】では、ビジネス、特にオフィスワークの領域において、どのような活用が考えられるか見ていきましょう。
目次
AI翻訳と生成AIの違い②:ビジネスでの活用領域
AI翻訳・生成AIは、ビジネスのどの領域に導入でき、どのような価値を提供できるのでしょうか。
AI翻訳の提供価値と活用領域
● 業務効率化: 業務上、必要な翻訳作業を外国語のスキルに関わらず誰でも簡単にできるようにし、人的リソースをより戦略的な業務に集中させる
▼具体例:
・ビジネスメールやチャット、各種資料や報告書等の翻訳
● コスト削減: 高品質な自動翻訳により、翻訳コストを削減しつつ、迅速な情報共有を実現
● グローバル展開の促進: 多言語対応の顧客サービスや製品情報提供により、新市場への迅速な進出を支援
▼具体例:
・外国語の論文やニュース、市場データなどを瞬時に日本語化し活用
・Webサイトやセールス資料の多言語化
● コミュニケーションの円滑化: 社内外での異文化間コミュニケーションを強化し、グローバルなコラボレーションを推進
▼具体例:
・社員教育コンテンツや業務マニュアルの多言語化
グローバルビジネスは、やはり英語が中心の世界です。また、世界の市場や工場としての中国や東南アジアとのコミュニケーションの必要性も年々増しています。AI翻訳は個々人の外国語のスキルに依存せず、組織として、言語の壁を越え、グローバルマーケットに挑む力を与えます。
生成AIの提供価値と活用領域
● 創造性の支援:独自のコンテンツを迅速に生成
▼具体例:
・ミーティングの議事録を自動で生成
● 業務効率化:繰り返し行う作業やルーチンワークを自動化し、人的リソースを戦略的な業務に集中させる
▼具体例:
・ミーティングの議事録を自動で生成
・総務部門における社内の問合せ業務をAIボット化
● イノベーション促進: 新しいアイデアの生成やプロトタイプの迅速な開発を支援
▼具体例:
・R&D部門におけるアイデア生成の壁打ち相手になってもらう
生成AIのビジネス導入は、ここに記載したような領域以外でも、さまざまな可能性を秘めています。個人レベルにおいては、既に生成AIを上手に活用し、業務効率化などの恩恵を得ている人もいることでしょう。ただし、組織単位でビジネスの現場に組み込み、価値を発揮するには、生成AIサービスをそのまま使うだけでは十分ではないかもしれません。例えば、上で挙げたような問合せ業務のボット化や、R&D部門での活用においては、データの追加学習や適切なアプリケーションの開発が必要です。
ビジネスで活用するにあたっての注意点
次にビジネスで活用するにあたっての注意点をまとめました。
- 精度の確認:生成AIもAI翻訳も完璧ではありません。生成されたコンテンツや翻訳結果は人間がチェックし、必要に応じて修正する必要があります。
- セキュリティやプライバシー:AIを導入する際は、顧客データや企業データのプライバシー保護に十分注意する必要があります。AI特有の現象で、過去に入力されたデータが関係のないところで突然出現する、「湧き出し」が見られることがあります。AIのシステム構成やデータ保管方法、セキュリティポリシーなどは、充分配慮しましょう。
- コストと導入効果の評価:AI技術の導入には初期費用がかかるため、その効果を評価し、投資対効果を慎重に見極めることが重要です。
- 継続的な評価と改善:AI技術は一度導入すれば終わりではなく、利用者による継続的な評価と、必要に応じてプロンプト(命令文)等の改善が求められます。定期的なフィードバックのサイクルを導入し、AIの活用方法を最適化していくことが大切です。
コンサルティングファームや監査法人などでは、生成AIの導入により、大幅な時間短縮を実現したことが報道されています。華々しい導入効果にフォーカスがあてられることが多いですが、これらの企業でも、このような注意点やリスクをしっかりと踏まえつつ、導入が進んだことは間違いありません。
まとめ
AI翻訳と生成AIは、同じ技術を基盤としながらも、さまざまな点で異なることがお分かりいただけたでしょうか?
AI翻訳は翻訳に特化して開発されたAIであるため、ビジネスのどの部分に導入すべきか、どんな効果が期待できるかが非常に明確です。一方で生成AIは、いろいろなことに利用できる可能性が広いが故に、最適な活用方法や導入形態が利用する個人や組織に委ねられている部分が大きいと言えます。
生成AIを最大限に効果的に導入するためには、現在のリソース(人材、技術、データなど)やビジネスプロセスや課題を正確に把握した上で、何をAIに置き換えることが有用かを検討し、それに伴うリスクも洗い出したうえで、適切な開発やマネジメントを行うことが重要ではないでしょうか。