今回は、TOEIC 700-800点台の中上級レベルの英語力を持つビジネスパーソンを対象に、プレゼン資料や契約書などの文書を英語で効率的に作成する上で重要な考え方や実践ポイントを前後編に分けてご紹介しています。
「前編」では、ビジネスの現場で通用する「読みやすい英文」とはどのような文か、正確で「読みやすい英文」を作成するために意識すべき「3C(Clear、Correct、Concise)」とは何かについて解説しました。また、日本語と英語の言語構造の違いが、時に読みづらい翻訳文を生む原因となりうることについても説明しました。
この後編では、「3C」の考え方を踏まえ、AI自動翻訳を活用して効率的に「読みやすい英文」を作成するための具体的なポイントや手順を解説します。
目次
AI自動翻訳を活用して読みやすい英文を作成するために
前編でも触れたように、日本語と英語は言語構造が大きく異なります。例えば、日本語では文脈により主語が省略される、接続詞が多用され文が長くなりやすいなどの特徴があります。一方、英語では明確な主語が必要であり、短く簡潔な文が好まれます。さらに、日本語のまま英語に直訳すると、文化的な違いから生まれる表現の不一致が生じたり、文章全体の構造が不自然になったりしがちです。
こうした違いにより、日本語の文章をそのままAI自動翻訳にかけると、読みづらい英文が生成されることがあるのです。
日本語の文章をそのままAI翻訳するとどうなる?
日本語の文章を調整せず、そのままAI自動翻訳で翻訳するとどのような翻訳結果になるのか、例文を使って確認してみましょう。
<日本語文>

<英文(翻訳結果)>

この翻訳文は、元の文の直訳としては非常に精度が高いのですが、前編でもご紹介した通り、主語が不明確だったり一文が長かったりと、決して読みやすいとは言えません。
AI自動翻訳を活用して読みやすい英文を作成する3つのステップ
AI自動翻訳を使って質の高い英文を作成するためのステップは、以下の3つです。
- 翻訳したい日本語の文章を調整する
- 調整した日本語の文章をAI自動翻訳で翻訳する
- 翻訳結果の英文を確認して最終調整を行う
これらのステップを実行することで、AI自動翻訳の力を最大限に活用し、読みやすく、正確な英文を作成することができます。
次の章から、それぞれのステップを詳しく見ていきましょう。
翻訳したい日本語の文章を調整する
AI自動翻訳に日本語を入力する前に、まずは翻訳したい日本語の文章(原文)を調整しましょう。日本語と英語の言語構造の違いや、読みやすい英文のための「3C」を踏まえ、具体的には以下の手順で進めると良いでしょう。
- 長い文は短く分割する
- 「主語・目的語・動詞」のシンプルな文型にする(その際、婉曲表現・慣用句などは書き換える)
- 英語的な段落(パラグラフ)の構造にする
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1.長い文は短く分割する
読みやすい文章にするには、まず日本語の文章を短く分割することが大切です。長文は複雑な構造になりやすく、翻訳ミスや不明瞭な文の原因になる可能性があるためです。
一つの文には一つの内容だけを含める(一文一義にする)よう心がけましょう。接続詞で繋がれた複文は、可能な限り単文に分けます。
例文は、以下のように短い文に分割することができるでしょう。

2.「主語・目的語・動詞」のシンプルな文型にする
前編で、「3C」のひとつ、Concise(簡潔)な英文を書くには、SVOやSVCなどのわかりやすい文型にすることが重要という説明をしました。そのためには、もとの日本語の文を「主語・目的語・動詞」の関係性がわかりやすい文にしておくことが重要です。
また、Clear(明確)な英文に翻訳されるよう、日本特有のことわざや慣用句、遠回しな文章の使用は避け、直接的な表現に修正しておきましょう。例えば、「石橋を叩いて渡る」ということわざは、「慎重に行動する」と言い換えます。

3.英語的な段落(パラグラフ)の構造にする
ここまでで、日本語の例文が随分わかりやすく調整できました。英語中上級者の皆さんであれば、さらに、英語的な段落(パラグラフ)の構造にすることを意識すると良いでしょう。
英語のパラグラフは、一つの主題に関する文の集まりです。通常、パラグラフは主題文(トピックセンテンス)で始まり、それを支持する複数の文(サポーティングセンテンス)が続きます。

具体的には、まず文章の中で最も言いたいこと=パラグラフの主題(トピック)を明確にし、それを表す文をトピックセンテンスとして先頭に置きます。
続いて、そのトピックを詳しく説明したり、例を挙げたりするサポーティングセンテンスを並べます。この構造を意識して日本語を組み立てることで、AI自動翻訳で翻訳した際に、より論理的で読みやすい英文を生成しやすくなります。
例文を次のように並べ直してみました。

調整した日本語の文章をAI自動翻訳で翻訳する
調整後の日本語文をAI自動翻訳にかけると、どのように改善されるかを確認してみましょう。例文を実際にみらい翻訳の「Mirai Translator®」に入力すると、このような翻訳結果を得ることができました。

翻訳文や逆翻訳された日本語の文を見てみても、かなりわかりやすく正確に翻訳できていることがわかると思います。
ただ、英語中上級者の皆さんであれば、翻訳された文章をそのまま鵜吞みにするのではなく、しっかりと内容をチェックし、必要に応じて英文を改善していきましょう。
翻訳結果の英文を確認して最終調整を行う
AI自動翻訳が訳出した英文を確認する際、具体的には、どのようなポイントをチェックすると良いのでしょうか?
主なポイントは3つです。
- 単語や表現を検討する
- 受動態の使用状況をチェックする
- 冠詞・名詞の使い方を検討する
ポイント1:単語や表現を検討する

まず単語や表現の検討です。より自然で適切な表現を選ぶことで、英文の質を高めることができます。
画像の例文を見てみましょう。赤字で示された部分は、同じような意味を持つ英文です。例えば、”Toward this goal” と “to this end” は同じ意味ですが、文脈によってはどちらかがより自然かを判断する必要があります。同様に、”aiming” と “aim” も、文の流れを考慮して選びましょう。
また、長い文書においては単語や表現の一貫性を保っているかを確認することが大切です。同じ意味を表す場合でも、表現がばらついたり、言い回しが変わったりしていないかをチェックしましょう。
ポイント2:受動態の使用状況をチェックする
英語では、受動態を使うケースが少ないです。しかしAI翻訳では、もとの日本語の文の影響で受動態が多用されることがあります。そのため、受動態が使われている場合は、能動態に書き換えられないか検討しましょう。
ただし、行為者を強調したくない場合や、主語を明確にできない場合には受動態が適切な場合もあります。文脈に応じて、最も自然な表現を選ぶことが重要です。
ポイント3:冠詞・名詞の使い方を検討する
冠詞(定冠詞/不定冠詞)や名詞(単数形/複数形)の使い方は、英文の質や意味に大きく影響します。例文にも含まれる「a reputation」を例に説明します。
英語の文法的には「a reputaion」も「the reputation」も間違いではありません。しかし、「a reputaion」と「the reputation」では、それが指すものが違ってきます。

「a reputation」は「ある一つの評判」を指し、複数ある評判の中のどれか一つというニュアンスです。「製品が丈夫だ」「ブラック企業だ」「対応が素晴らしい」など、さまざまな評判があるわけです。「a reputation」だと複数の評判からどれか一つのことを指すことになります。
一方、「the reputation」は共通認識がある場合に使われます。画像の右側にあるように、書き手と読み手が同じ評判について理解しているのであれば、「the reputation」を使います。
些細な違いではありますが、このような冠詞の使い分けは、英文の正確さと自然さに大きく影響します。特に長い文章では、こうした冠詞・名詞の一貫性が重要です。
まとめ
今回紹介した英文作成のポイントを振り返ってみましょう。まず、もととなる日本語の文は以下の手順に従って調整します。
- 日本語の文章を短く分割する
- 主語・目的語・動詞の文型にする
- 英語的なパラグラフ構造にする
次に、調整した日本語文をAI自動翻訳に入力しましょう。最後に、訳出された英文を次の3つのポイントで最終確認します。
- 単語や表現が適切かチェックする
- 受動態を必要に応じて能動態に変える
- 冠詞や名詞の使い方を見直す
これらの方法を実践することで、AI自動翻訳を最大限に活用し、ビジネス文書に必要な、正確で読みやすい文章を作成することができます。

西山教授の著書『理工系のAI英作文術』
西山聖久教授の著書『理工系のAI英作文術 誰でも簡単に正確な英文が書ける』では、AI自動翻訳を活用した効果的な英文作成方法について解説しています。
「理工系」とタイトルにありますが、英文による資料やメールの作成など、文系やビジネスパーソンにも有益な内容です。AI時代の英語コミュニケーション能力を磨きたい方、効率的に正確な英文を作成したい方はぜひ手に取ってみてください。