進化する音声翻訳

音声翻訳を理解する!12の必須用語を一挙解説

2025.09.24

生成AIや翻訳アプリの進化をきっかけに、「音声翻訳」という言葉を耳にする機会が増えてきました。

音声翻訳は今や、海外旅行での会話支援、国際的なオンライン会議でのリアルタイム字幕、グローバル企業の顧客対応、さらには学会や国際シンポジウムでの研究発表のサポートなど、多様な場面で利用され始めています。

しかし、「リアルタイム翻訳の精度はツールによってなぜ違うの?」「S2STって最近聞くけど何?」など、いざ最適なツールを選ぼうとすると、ASRやWERといった専門用語の壁に突き当たることはありませんか?

本記事では、そうした音声翻訳の「わからない」を解消するため、基本から最新技術まで12の必須用語をやさしく解説します。この記事を読めば、ツールの性能を見極め、未来の可能性をイメージできるようになります。

基盤技術に関する用語

そもそも音声翻訳はどうやって動いているのでしょうか?この章では、その心臓部である基盤技術の用語を解説します。

1. ASR(Automatic Speech Recognition/音声認識)

人間の話す音声をテキストに変換する技術。音声翻訳の入り口として必須。
例:会議で発言をリアルタイムに文字起こしする機能。

2. MT(Machine Translation/機械翻訳)

ある言語を別の言語に自動変換する技術。従来はルールベースや統計翻訳を経て、2010年代後半以降はニューラル翻訳(NMT)が主流。

3. TTS(Text-to-Speech/音声合成)

テキストを自然な音声に変換する技術。翻訳結果を音声として聞けるようにする役割を担う。

➡ この ASR → MT → TTS の流れで音声翻訳を実現する手法は「カスケード方式」と呼ばれ、長らく主流でした。近年ではこれを一括処理する「エンドツーエンド方式」への移行が進んでいます。

4. エンドツーエンド(End-to-End)

音声→翻訳→音声を一括で処理する方式。従来方式が抱える「遅延の累積」や「誤差の伝播」といった課題を解決し、より高速で自然な翻訳の実現が期待できる。ただし、翻訳精度については、特定の条件下で従来方式が上回る場合もある。

➡このように、ASR・MT・TTSを組み合わせる「カスケード方式」から、それらを統合した「エンドツーエンド方式」へと、技術の主流は移り変わっています。

実用シーンで役立つ用語

では、実際にツールを選ぶとき、私たちは『どこを』見れば良いのでしょうか?この章では、性能や利用環境に関わる実践的な用語を紹介します。

5. オンデバイス翻訳

スマホやPCなど端末内で処理を完結させる翻訳方式。オフライン環境やセキュリティ重視の現場で有効。

6. クラウド翻訳

サーバーを経由して翻訳する方式。多言語対応や高機能といったメリットがある一方、ネットワーク環境への依存がデメリット。セキュリティについては、サービスにより異なる。

7. レイテンシー(Latency)

入力から翻訳結果が出るまでの遅延時間。会話の自然さを左右する重要な指標です。前の章で紹介した「エンドツーエンド方式」の普及などが、このレイテンシー削減を大きく後押ししている。

8. WER(Word Error Rate/単語誤り率)

ASRの精度を測る代表的な指標。認識結果の誤りを「単語単位」で評価する。
例:10語のうち2語が誤りならWER=20%。
ビジネスで実用レベルとされるのはWERで10%以下、高度な会議では5%以下が求められることもある。

9. CER(Character Error Rate/文字誤り率)

日本語や中国語など、単語の境界が不明瞭な言語に使われる指標。文字単位で認識精度を測る。日本語のように単語がスペースで区切られていない言語では、単語の定義自体が曖昧になりがちなため、より安定した評価が可能な文字単位のCERが重要な指標として用いられる。

※補足:文単位で評価するSER(Sentence Error Rate)、音素単位で評価するPER(Phoneme Error Rate)もありますが、一般的にはWERとCERが中心です。

➡ツールを選ぶ際は、「どこで使うか(オンデバイス/クラウド)」「どのくらい正確か(WER/CER)」「どのくらい速いか(レイテンシー)」という3つの視点で比較検討することが重要です。

研究・先端領域の用語

音声翻訳の技術はどこまで進化するのでしょうか?この章では、未来のコミュニケーションを変えるかもしれない先端技術を見ていきましょう。

10. S2ST(Speech-to-Speech Translation)

音声をテキストに変換せず、そのまま別の言語の音声に翻訳する方式。レイテンシーを減らし、より自然な会話を実現する先端技術。実用化に向けた開発が進んでいる。

11. パラ言語的表現(Paralinguistics)

言葉の意味そのものではなく、声のトーンや抑揚、感情などを含む表現。感情やニュアンスを翻訳で再現する研究が進んでいる。

12. マルチモーダル翻訳

音声だけでなく、映像やジェスチャーなど複数の情報を組み合わせて翻訳する手法。
将来的にはオンライン会議や教育分野での応用が期待される。

➡ ここで紹介した用語は「未来の音声翻訳」を形づくる技術です。今は研究段階でも、数年後には実用化され、ニュースや学会で頻繁に目にする可能性があります。

まとめ

音声翻訳の世界は、ASR(音声認識)やMT(機械翻訳)といった基盤技術から、WERやCERといった精度評価の指標、さらにS2STやマルチモーダル翻訳といった未来技術まで幅広くつながっています。今回紹介した12の用語を押さえておけば、ニュースや研究発表を読むときやツールを比較するときに役立つでしょう。

音声翻訳は、国境や言語の壁を超える新しい手段として進化を続けており、今後のグローバル社会やビジネスの姿を大きく変えるかもしれません。