2025年10月、みらい翻訳は、アンダーソン・毛利・友常法律事務所と弁護士ドットコムと共同で、法務領域における“マルチエージェント連携”の実証実験を開始しました。マルチエージェント連携とは、異なる専門性を持つ複数のAIエージェントが相互に情報をやり取りし合い、各エージェントが担う処理を統合して一連の業務を完遂する枠組みを指します。
AI翻訳を主要な事業ドメインとしてきたみらい翻訳が、「法務分野におけるAI活用」という新たな領域に展開したことを不思議に思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、みらい翻訳にとって、これは大きな方向転換というより、これまでと地続きの進化のひとつなのです。
なぜ、法務とAI翻訳とが「地続きの進化」と言えるのか。この記事では、そんな疑問に答えていきたいと思います。
目次
法務の世界は「言葉」でできている
法務の世界は、常に「言葉」で成り立っています。 法律からはじまり、契約、規約、議事録、判例、特許や商標の登録証など、――どれも言葉の選び方ひとつで意味が変わり、その違いが現実の行動や結果を左右します。 契約書は、まだ起きていない未来の出来事を言葉で縛り、秩序を与えるもの。 判例は、過去の事実を言葉で再構成し、解釈と意味を与え直すものです。 つまり、法務とは「言葉で世界を定義する仕事」と言えます。 法務業務の本質が「高度な言語処理」にあるからこそ、言葉を処理・生成する大規模言語モデル(LLM)や自然言語処理技術との間に、強力な親和性が生まれているのです。法律家は、社会のプログラマー?
少し視点を変えて、エンジニアリングの世界から法務を見てみましょう。 私たちAI開発者の目には、法律家や企業の法務担当者は、ある種の「プログラマー」のように映ります。 プログラマーは、プログラミング言語(コード)を用いて、コンピュータに意図した動作をさせるための論理構造を組み上げます。 一方、法務のプロフェッショナルは、自然言語(日本語や英語など)を用いて、社会や企業活動が適正に動くための論理構造を組み上げます。- 「もしAという事象が起きた場合(If)、Bという処理を行う(Then)」
- 「ただしCという例外がある場合は(Else)、Dを適用する」
「翻訳」と「法務」の意外な共通点
ここで改めて、みらい翻訳がこれまで根幹の事業としてきた「AI翻訳」に目を向けてみましょう。 「翻訳」というと、単に「英語を日本語にする」単語の置き換え作業だと思われるかもしれません。しかし、高度なビジネス翻訳や専門翻訳の本質は、「異なるルールを持つ言語や文化の間での、意味の再構築」にあります。 文法、文化、論理構造といった「ルール」が全く異なる二つの世界の間で、元の情報が持つ価値やニュアンスを等価に保ったまま移し替える。そのためには、元の文脈を深く理解し、別のルールの下で正しく機能するように情報を組み直す(再構築する)必要があります。 やや強引に例えるなら、法務の業務も一種の「翻訳」と言えないでしょうか。- ビジネスの現場で起きたカオスな「事実」を、法律という「コード」に翻訳して契約書に落とし込む。
- 難解な「条文」を、経営判断ができる「ビジネス用語」に翻訳してアドバイスする。
汎用AIにはできない、「プロ」×「プロ」の協働
もちろん、ChatGPTのような汎用的なAIに契約書を投げれば、それらしい回答は返ってきます。しかし、企業の命運を左右する法務の現場において、「それらしい」では不十分です。「90%合っている」は、法務では「使えない」と同義だからです。 ここに、今回私たちがアンダーソン・毛利・友常法律事務所、そして弁護士ドットコムと協働する意義があります。 法律家は、法的な「正解」やそこに至る「思考プロセス」を熟知しています。また、実務に耐えうるAIには、正確で膨大な「法的知識(データベース)」へのアクセスが不可欠です。 一方、私たちみらい翻訳は、それらを統合しAIを制御する技術を熟知しています。 今回の開発では、3社がそれぞれの強みを持ち寄り、プロンプトエンジニアリングの段階から深く協働しました。- アンダーソン・毛利・友常法律事務所が、法的な思考プロセスに基づく指示のアイデア出しや、出力結果に対する専門的な評価・フィードバックを行う。
- 弁護士ドットコムが展開するリーガル特化型AIエージェント「Legal Brain エージェント」と連携し、信頼性の高い判例・法令データベースに基づく検索・参照能力を提供する。
- みらい翻訳が、それらを受けてプロンプトをAI向けに構造化し、精度の高い回答が安定して生成されるよう、出力のチューニングやシステム実装を行う。